A Hit-and-Run Case

轢逃げ(ひきにげ)
1998
磁土、通りすがりのタクシー、事務用クリアケース
26×32×6cm
東京都葛飾区の路上

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午前3時頃、自宅前の路上にひとかたまりの粘土を放置した。
程なく深夜タクシーが猛スピードで走ってきて、粘土のうえを通過した。
パアンという予想外に鋭い音がして、粘土を踏みつぶし、走り去っていった。
ぺしゃんこになってアスファルトに張りついた粘土をメリメリと剥がして部屋に持ち帰った。

明るいところでそれを見ると、タイヤの溝の跡がくっきりと天然の浮彫となって刻まれていた。
ただ単に偶然通りかかっただけのタクシーのタイヤの跡だ。
それはほんの数十分の一秒の美しさだった。
あの音、撮っておけばよかったと思った。
粘土は事務用のクリアケースに入れて、大事に保管することにした。

だが、引越しのときにあっさり割れた。

(2000年記述)